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第一話:まだ誰も知らない冒険の前夜

 テレビのエンドロールが静かに流れ、部屋には穏やかな時間が漂っていた。
 ソファには健太と美咲。二人きり。さっきまで並んで観ていた映画の余韻が空気の中にほのかに残っている。

「……なんか、この映画思ったより良かったな」
「うん……健太、泣いてなかった?」
「え、いや、あれは目にホコリが……」
「ふふ。健太って意外と優しいよね」
「そ、そうかな?」

 言葉を交わすたび、二人の間にやわらかな空気が生まれる。互いに視線をそらしがちなのも、どこか心地いい緊張感のせいだろう。

「こういう日、ずっと続くといいよね」

 美咲がぽつりとつぶやいた。

「ねえ、健太……将来のこととか考えたことある?」
「将来、か……考えたりしなくもない……かな」
「何それ。なんか、はっきりしない答え。でもさ、もし健太とずっと一緒だったらどうなるんだろう、ってたまに思うんだ」
「……俺も美咲となら、なんか……面白そう」

 二人の間に少しだけ沈黙が落ちる。ふと、美咲の手が健太の手のすぐそばに伸びてきた。ほんの数センチ。

「ねえ……」

 美咲がもう一度ささやき部屋の空気がふっと変わる。映画でもテレビでもない、二人だけのこれからの時間が静かに始まろうとしていた。
 部屋に沈黙が落ちる。美咲の手にそっと触れたまま、健太はほんの少しだけ彼女の方を見やる。美咲も同じようにゆっくりと視線を健太に向けた。互いの視線が重なったとき、空気がピンと張り詰める。

「……健太」

 二人の距離はもうほとんどゼロに近い。沈黙の中で何かが始まろうとしていた。
 健太と美咲はそっとお互いに寄り添う。やわらかな吐息と鼓動が重なる夜の静けさに溶けていく。
 言葉はもう必要なかった。夜はゆっくりと流れ──やがて、静けさの中でごくかすかな喘ぎが溶けて消える。何度も確かめるようにお互いを抱きしめ合う。
 その夜、二人は誰にも言えない秘密の中で、ただひとつになっていた──

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