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最終話:この命に、全てを託して

 春の風がベランダのレースカーテンをふわりと揺らした。小さなアパートのリビング。柔らかな日差しが差し込み、窓辺には洗いたてのガーゼが干されている。その奥、ソファに腰かけた女性の姿があった。
 美咲。白いワンピースに身を包んだ彼女のお腹は、ゆるやかに膨らんでいた。丸く、柔らかく、命を育てるかたち。その膨らみの中心を彼女は両手でそっと包み込む。

「……ねぇ、あなた……」

 隣に座る健太の肩にもたれながら、美咲は静かに微笑んだ。

「今この中で、小さな物語があったのかも……って、ふと思ったの」

 健太は「なんだそれ」と笑って、美咲の手に自分の手を重ねる。外では小鳥がさえずっていた。日常の音と未来の気配がゆっくりと混ざり合っていく。
 かつて──誰の目にも触れない場所で、言葉も形も記録も残らない、ほんの小さな、小さな命のドラマがあった。
 イチロー、ジロー、サブロー。彼らはただまっすぐに生きて、走って、託して──そして、未来へと続く扉を開いたのだ。

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