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第三話:分かたれし者たち

 圧倒的な壁粘液を突破した瞬間、景色が一変した。そこは、ぬめりと脈動に包まれた赤黒い迷宮だった。

(ここが……子宮……)

 イチローの視界に広がるのは、無数の枝道と波打つ壁面。まるで生きているかのように壁が呼吸し、奥へ奥へと誘い込むように収縮を繰り返している。空間は湿度に満ち、生温かい粘膜の香りが空気を満たしていた。

「うっひょ〜。マジで異世界迷宮って感じじゃねぇ?」

 サブローがぬるりと飛び出し、ねっとりと絡みつくような空間に身を泳がせる。

「はしゃぐな。ここは酸性度が落ちた代わりに免疫細胞の本拠地だぞ」

 ジローが冷ややかに警告した刹那、ぐるる、と地の底から響くような音がした。壁の一部が蠢いた。赤く膨れた影が現れ、その中から粘液に包まれた白い何かがにゅっと伸びる。

「マクロファージ……!」

 ジローが即座に反応し背後へ飛び退いた。

「ちょっ、おいおいっ!今のやつ他の連中吸い込んでないか!?」

 サブローの悲鳴と共に数体の精子たちが触手のようなものに絡め取られ、溶かされるように消えていく。

(逃げなきゃ……でも、どっちへ!?)

 イチローの目の前に三方向への分岐が現れた。一つは奥から微かに温かい流れを感じるルート。もう一つは鼓動のような拍動が強く伝わるルート。最後のひとつはほのかに甘い匂いが漂っていた。

「ここで固まってたら全滅するぞ!」

 ジローがすでに進路を見極め、流れのあるルートに滑り込む。

「えー?オレは匂いで行くぜ〜。絶対ヤバいけど、そっちのほうが面白そうだし」

 サブローは躊躇なく甘い匂いのする方へ進路を取る。

「お、おい、待って……!」

 イチローは一瞬躊躇したがすぐに叫んだ。

「別れて進もう!生き残ってまた合流だ 絶対に誰かはたどり着ける!」

 三方向に向けて三つの精子がそれぞれの決意と共にぬるりと分かれていく。

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