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第三話:分かたれし者たち

 イチローは分岐の中でも最も鼓動が強く伝わってくる道を選んだ。肌を伝う粘膜の圧がまるで何かを運ぼうとするリズムのように感じられたからだ。

(この奥に……きっと、何かがある)

 まっすぐ進む道なんてきっと危険だ。でも、それでも。

「信じるしかねぇだろ、みんなの想いも、オレのこの……直感もっ!」

 イチローは仲間の精子たちの残した小さな痕跡を拾いながら進んでいた。かすれた粘液の揺れ、細かな流れの乱れ。それはまるで、精子たちの小さな命の叫びのようだった。

(誰かが通った証がある。無駄じゃなかったんだ)

 進むたび壁は少しずつ狭まり、ねっとりと絡みつく。熱が帯びていく通路、その奥から妙な脈打つ音が聞こえてきた。

(……なんだ?この感覚)

 ゴウン……ゴウン……と低く響く拍動。それはまるで、この道そのものが生きているかのようだった。不意に壁の奥から何かがぬるりと現れる。

「っ……来たな!」

 それは他のどれよりも巨大だった。マクロファージの上位種だろうか。表面には粘液のトゲが密集し視線のような穴が蠢いている。

(やるしかねぇ……!)

 逃げ場はない。ならば、突破するしかない。

「オレは、止まらない……っ!」

 イチローは壁を蹴って真正面から突進した。迫る粘液の触手をギリギリでかわし、トゲの間をすり抜け、中心を貫く──!
 ズズ……と内側から響くような摩擦音が全身を這う。

「うあ゙っ……!!くそ……でもっ……っ!!」

 粘膜の圧に身体が軋み、意識が遠のきかける。それでも彼は進む。その先に誰かが待ってる気がしたから。

(ジロー……サブロー……オレ、絶対にたどり着く)

 粘膜の壁を突き破ったその瞬間、音が消えた。そこはまるで別世界だった。滑らかな蠢きが奥へと誘う広く静かな道。

「ここが、最終試練の入り口か……!」

 粘膜に傷を刻まれた身体を引きずりながら、イチローは前へ進んだ。

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