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第三話:分かたれし者たち

「いや〜、マジでこっちヤベぇ匂いするんだけどっ!」

 サブローは浮かれた声を残して他の二人と別れた。選んだのはほんのり甘く、どこか温かい香りが漂うルート。

(つーか、あのジローくんマジでガチすぎんだよなー。そんなピリピリしてたらハゲるって)

 通路は狭く、ぬるついた粘液が身体に絡みついてくる。軽口を叩きながら進むが、壁から微かに震えるような音が伝わってきていた。

(……ん、なんか空気変わった?)

 先ほどまでのぬめりとは違う。より濃厚で生温かい膜のようなものがサブローの全身を包み始めた。

「うおっ……ぬるん……?やっば、オレ今ぜってぇ生きた壁に包まれてるだろこれ!」

 進もうにも前後左右からじわじわと収縮する感触。粘膜が押し返すようにうねり、身体をねっとりとなで回してくる。

「やばいやばいやばい!これ絶対なんか来るって!」

 パニック寸前。サブローはとっさに真横の分岐に滑り込んだ。瞬間、背後でぶしゅ、と液体が弾け粘液が弓状に放たれる。

「うおあっぶねえええっ!?なにあれ!?酸の罠!?てか罠なんてあるの!?!」

 奇跡的にかわした自分に思わず乾いた笑いが漏れた。

「いやいや……笑ってる場合じゃねぇぞ」

 心拍にも似た鼓動が周囲を揺らす。脈動が徐々に速くなってきていた。生体の異物反応が確実にこちらに迫ってきている。

「っつーか……ここ、完全に選別ルートってヤツじゃね?」

 気づいたときにはもう遅い。前方で空気が明確に揺れた。ぶわ、と開いた通路の奥から、のっそりと何かが現れる。白い触手。ぬらりと伸びる、それはまるで意志を持つ生き物のようだった。

「ひいいいいいっ!!」

 その瞬間、サブローの声から笑いが消える。逃げるルートもない。選択肢は一つ。

「突っ込むしかねぇってかよっ!!」

 叫びながらぬめった粘液の中を跳ね飛ぶ。間一髪で触手の脇をすり抜け、壁を蹴って方向転換。身体の端が一瞬掠められ、粘液が焼けるようにチリッと泡立った。

「うおっ!いってぇっ…………かすっただけでこれかよ」

 息を切らしながら前へ前へと泳ぐ。

(……あいつら、大丈夫かな……)

 心の奥にふっと浮かんだイチローとジローの顔。いつもは騒いで誤魔化してるけど、今は一人きりだ。

「っしゃあ……!ビビってる場合じゃねぇ!行くぜ、サブローッ!」

 気合いと共に壁を蹴り、暗い粘膜の海へと突き進んだ。

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